【キングダム】楚軍を担う武将の項翼と白麗とは?
『キングダム』の舞台となっている春秋戦国時代末期に、秦と並ぶ大国だったのが楚です。
それは史実でも王翦(おうせん)に
「70万の大軍がなければ侵攻できない」
と言わしめるほどであり、事実、を減ぼしたことで秦の中華統一がほぼ完了したといっても過言ではありません。
『キングダム』においても、楚は秦よりも広い国土を持つ大国と表現され、若い武将の台頭もめざましく、政の中国統一の大きな障壁となることは間違いないと考えられます。
そこで、合従軍と秦の戦いにおいて戦死した汗明(かんめい)、臨武君(りんぶくん)、さらに、史実によれば合従軍の失敗によって楚王に疎んじられ誅殺されてしまう春申君(しゅんしんくん)といった人物たち亡き後、楚軍を率いるであろう媧燐(かりん)将軍の元で活躍すると考えられる項翼、白麗について考察してみたいと思います。
【キングダム】 項翼は楚の名門「項氏」の家柄?
まずは「雷轟」という異名も持つ項翼ですが、史実にその名前が見出せないことを考えると、「キングダム』のオリジナルキャラクターであるといえるでしょう。
作品では千人将として登場しますが、囮にされたとはいえ合従軍の戦いでは 媧燐(かりん) 将軍に5千の兵を任され、
「こいつはバカだが無能じゃない」
「調教し甲斐のある男だ」
と言わしめた人物です。
理詰めで戦局を組み立てる 媧燐(かりん) としては、項翼が自分の期待どおり動く配下になると期待できると値踏みしての発言でしょう。
そして中国史に少しでも詳しい方なら、「楚」の「項翼」という国名と名前を見てすぐに項羽の名前が思い浮かんだのではないでしょうか。
項羽は、後に前漢の初代皇帝となる劉邦と競い合うように、始皇帝亡き後の秦を滅ぼした人物です。
その項羽の祖父がこの時代の楚の将軍・項燕です。
『史記』の『項羽本紀』には、項氏が代々楚の将軍を務めた家柄であると記されています。
『キングダム』にはまだ項燕将軍は登場していませんが、上記した事柄と照らし合わせれば、
「信と同じくらいに単純で無謀で調子に乗りやすい性格」
などと『キングダム 英傑烈紀』の人物紹介ページに記されている項翼ですが、楚の項氏という由緒正しき家柄であると考えられるのです。
作中でも「五大宝剣」のひとつであり、史実でも宝剣と伝わる「莫邪刀(ばくやとう)」を所持していることも、名門一族の出身であるということを想定すれば、なんら不思議はないといえるでしょう。
【キングダム】 項翼の愛刀「莫邪刀」を含む「五大宝剣」とは?
ここで項翼が愛刀と呼んでいる宝剣「莫邪刀」にも触れておきましょう。
作品でも紹介されていますが、莫邪刀は、干将と莫邪という呉の名刀匠である夫婦がつくり出した二振りの刀のうちの一つです。
『呉越春秋』によれば、呉王の命で王に献上する刀がつくられたとき、莫邪の対としてつくられたのが「干将」であり、陽の干将の刀身には亀文(亀裂模様)が、陰の莫邪の刀身には漫理(水波模様)がそれぞれ現れているとされています。
四世紀に書かれた『捜神記』では、莫邪は呉王ではなく楚王に献上されたとされており、楚の名門出身の武将である項翼が、功をあげたことによって王から賜ったと考えても不思議はないでしょう。
ちなみに「五大宝剣」というものは歴史上は存在しません。
しかし、中国史の中で名剣と呼ばれているものには、
「竜淵」「太阿」「湛廬」「魚腸」「巨闕」「工布」「勝邪」などがあり、ひょっとするとこの中のどれかが、今後「五大宝剣」のひとつとして作品に登場するかもしれません。
【キングダム】 「中華十弓」白麗は現在中華 三位の腕前
続いて白麗について考察してみましょう。
白麗といった名前も史実には見出すことができませんから、作品のオリジナルキャラクターと考えてよいでしょう。
白麗は弓の名手であり、戦においては、剣を用いて接近戦を繰り広げる味方武将を、後方から支援しています。
その強い弓は、女性にも見えてしまう外見とは裏腹に、鎧兜を軽 と撃ち抜くほどの強さを持っています。
ちなみに「中華十弓」という言葉も史実には見出せず、作品オリジナルの枠組みだと考えられます。
十弓が10人を意味するのであれば、現在のところ白麗の他に、魏の武将・黄離玄、魏の将軍で廉頗四天王のひとりである光燕、趙の武将・魏加の4人が登場しており、このうち黄離玄と魏加はすでに死亡しているので、残りは6人となります。
白麗はその中でも自らを
「俺の矢は今中華三位だ」
と位置づけているようですが、その序列はどのように決めているのでしょうか? ・・・
もちろん春秋戦国時代に武芸を競う古代オリンピックのような大会があったという話はありません。
その序列は主に、人づての噂話や逸話から自らの技量と比べて位置づけしていると考えられます。
また「今」といっていますので、死んでしまえばその序列からはずれると考えられます。
とすれば、噂に聞いて自分よりも上であると思っていた人物と戦場で相対し、討ち果たすことでその序列を上げることができるということでしょう。
すでに千人将も任されている白麗は、自分よりも腕が上だと思っている人物と戦って勝ち、その上で自分より上の弓の名手が2人いると想定していると考えられます。
そう考えれば、今後白麗が自分よりも腕が上だと思っている人物を戦場で討てば、中華十弓の筆頭になることも十分に考えられ、白麗がどこまで序列を上げるのか楽しみなところです。
【キングダム】 白麗 は楚の宝弓「大屈」を手にする?
中国史には宝剣と同様「宝弓」と呼ばれる弓も存在します。
『東周列国志」には、楚の国庫に「大屈」という宝弓が所蔵されている話が記されています。
『キングダム」にも「四宝弓」などといったくくりで宝弓が登場し、それを手にした白麗が中華十弓一位となって信の前に立ちはだかる光景が描かれる可能性もあるのかもしれません。
さらに余談を書くと、李信(りしん)の子孫で『史記』に『李将軍列伝」が残る前漢の将軍李広は、騎乗で弓を射る騎射をよく用いて敵を撃ち倒した弓の名手と記されています。
李家は代々弓術を受け継いだとも記されており、もしかしたらこの後『キングダム」でも、突如として弓術に目覚めた信が持ち前のガッツと身体能力で弓の名手となり、中華十弓の筆頭に昇り詰めた白麗を相手に、激しい騎射の応酬を繰り広げる……
というような展開も可能性・・・・・として考えられるのです。
『キングダム』は、原泰久による日本の漫画。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて2006年9号より連載中。 第17回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞作品である。
キングダム (漫画) - Wikipedia