【キングダム】王騎(おうき)王弟の反乱に与した王騎の真意とは?
成蟜(せいきょう)の反乱に協力した竭氏(けつし)の味方として登場した王騎。
その後にはその前の話である、王宮から御車で脱出する嬴政(えいせい)に化けている漂(ひょう)と護衛する昌文君の前に現れるエピソードが描かれます。
漂と昌文君の前に
「どこへ行くの昌文君ン? 宴は城で始まったばかりでしょオオ?」
キングダム1巻
と騎乗したまま立ちはだかり、昌文君と壁が語るように、馬を並べ昌文君をまさに軽くあしらいながら
「昭王の時代が懐かしくてたまらないわねェ」
キングダム2巻
とのたまい、ぬかりなく伏兵まで準備して昌文君軍を追い詰め、昌文君を谷から突き落としたするという王騎が見せた行動。
これと、嬴政(えいせい)軍と成蟜(せいきょう)軍が最後の戦いを繰り広げている王宮に自らの軍隊を引き連れて現れ、竭氏(けつし)に仕える上級武官である魏興を一刀両断し、嬴政(えいせい)の前に仁王立ちし見下すように、しかし礼儀だけはを扱い
「貴方様はどのような王を目指しておられます?」
キングダム5巻
と問い、嬴政(えいせい)の
「中華の唯一王だ」
キングダム5巻
という返答を引き出しました。
さらにその
「一点の曇りもなく內に強く光っている」
「この目はしっかりと中華への路、をとらえている」
「今日のところはこれで引き上げるといたしましょう」
キングダム5巻
と、皆が一斉に驚きの表情を浮かべる中、きびすを返して去っていく姿が、あまりにも違い過ぎると思った方は多いのではないでしょうか?
(それ以前に、王騎の登場したときのあの姿とその言葉使いのギャップに「キモイ」と思った方も多かったとは思いますが……)。
5巻で再登場するまで王騎は多少どっちつかずといった行動も見せていました。
どちらかといえば「敵キャラかもしれない」と思わせるせるような役回りでした。
もっと悪くいうならば、2巻で描かれている剣を伐ち合わせながら発した昌文君の
「なぜ突然参戦してきた」
という問いに対して、
「熱き血潮が渦巻く戦いを求めて!」
と答える姿を見て、戦だけを求めて日和見な行動を取っているただの好戦的な人物だと感じた読者も多かったのではないでしょうか。
当初は、やはり戦好きのちょっと変わった、でもやたらと強い将軍といった人物が設定されていたと思われるのです。
【キングダム】王騎(おうき)作中でのキャラクターの伏線
ただし作品では5巻までの間にも、のちに、嬴政(えいせい)の命に従って、李牧と龐煖に率いられた趙軍と対するべく総大将として秦軍を率いる姿を予感させるような伏線が所々に描かれています。
具体的には
「こうやって馬を並べるなんて懐かしいわねェ昌文君ン」
と言いながらまるでからかってでもいるように、遊んでいるような感じで昌文君と剣を交える姿や、昌文君の偽の首を成蟜(せいきょう)陣営に差し出し、肆氏に詰め寄られれば
「あれれ!? 肆氏はこの王騎を疑ってるんだア」
キングダム2巻
と人を食ったような態度で竭氏(けつし)をちゃかして煙にまくといった態度をとる描写であり、はたまた昌文君の首と引き替えに昌文君の領地を手に入れて、成蟜(せいきょう)陣営が昌文君が生きていることを知って人質としてその妻子を引き渡すように迫ると
「彼の領土はすでに私のものですよォ つまり領内の人間は全て私の奴隷です それを渡せとは面白いことをおっしゃいますねェ」
キングダム2巻
と追い返すといった行動を見せる描写です。
つまり、王騎にとって昌文君とは、秦六大将軍の摎(きょう)将軍が
「我らが王の御子だというのか」
と昌文君を驚かせるような秘密さえ語り、その事後を託すほど信頼しているまさに戦友と呼べる旧知の間柄であり、常に味方とは言わないまでも敵に回すような行動をとる相手ではないわけです。
だいたい、昌文君が剣技で王騎に抗せるはずはなく、王騎にその気があれば、脱出劇の時に刀両断されていたことでしょう。
そう考えると、描かれていた昌文君を崖から突き落とした行為も、成蟜(せいきょう)陣営には嬴政(えいせい)に化けた漂に従った昌文君の軍勢を追いかけ討ったという事実を見せながら、伏兵を置くために事前に訪れていたことで人が墜ちたとしても助かるだろう川があることを確認してから落とすことで、戦友である昌文君は助けようとしたとも思えてきます。
ちなみに王騎は10巻でも、将来秦の将軍になるであろうと期待した信に統率力の修行をさせるめ、下に川のある崖下に蹴落としています。
それにしてもその修行を見事成し遂げて戻ってきた信率いる百人隊に「飛信隊」の名を与え
「宜しく頼みましたよ。百将信」
と、それまで
「童信(わらべしん)」
と呼んでいた
信を初めて将の敬称をつけて呼んだ場面は感動的なシーンのひとつです。
以上の事柄から、常に人を食ったようなオカマ言葉と、触れれば首が飛びそうな威圧感と武力の裏側には、秦を支えた大将軍としての知性と品格、そして揺るぎない忠誠心を持った大人物であることが理解できます。
嬴政(えいせい)に対しても、その言動と目の輝きに、自らが仕えた昭王と並ぶ、いやもしかしたら中国を言葉通り統一するということを成し遂げる英気を見出したあとは、その路に貢献すべく戦で命を落としてまでも臣従するところからもわかります。
【キングダム】王騎(おうき)影武者となっていた漂の死は王騎のせいか?
王宮を脱出する嬴政(えいせい)に化けた漂を乗せた御車と護衛する昌文君の前に立ちはだかったのは王騎軍です。だれもこの脱出劇に気づかず、王騎だけがその鋭い観察眼と経験則より感づきました。
では王騎は御車の中にいる人物が嬴政(えいせい)の影武者であると気づいていたのでしょうか?
その後のエピソードを見ても王騎がその時点で知っていたと思わせる場面はありません。
ただ昌文君の性格もよく知り、戦場のちょっとした違和感も感じ取る人物ですから、感づいていただろうことは想像に難くありません。
いずれにしろ
「ふり返るとなんと漂(ひょう)殿が敵兵を突破しているのが見えた」「てっきり漂殿は無事で合流地で再び会えると思っていたのに…」
キングダム2巻
と壁が語っているように、御車から飛び出し馬に飛び乗った漂(ひょう)は、単騎で王騎軍の包囲を一度は突破しているわけです。
つまり漂(ひょう)は王騎軍に討たれたわけではないということです。
王騎軍を突破した後に刺客として送り込まれて討たれているわけです。
「この俺が致命傷を与えながらも逃がしたのは奴が初めてだ」
の言葉と、漂が乗っていたはずの馬と共に信のところに現れていないことを見てもそれは明白です。
だとすれば、たとえ王騎の配下の兵とはいえ自国の王である人物を斬ることができなかった、または王騎から生きたまま捕らえるという命令が下されていたとしても、漂は王騎軍から逃げ切れたというより、逃がしてもらったと言った方が正確だと思えます。
多分王騎には漂を殺す気はなかったのであろうと考えられます。
王騎は、秦と魏が戦っている戦場にひょっこりと現れます。
信の目の前に立ち
将軍とはなんたるものかを信に語ります。
もしかしたらこれは、信の親友であった漂(ひょう)を思いがけず死なせてしまったことへの王騎のせめてもの罪滅ぼしだったのかもしれません。
だいたいいくら信頼している昌文君が推している人物とはいえ、一兵士に将軍が語り掛けることなどないはずです。
しかもこの後には信に馬まで与えています。
信と親交を持つようになってからは彼の英気に感ずるものがあって面倒をみるようになったのだろうと思わせますが、最初の信との出会いはそういった意味があったのかも……と思わせるので・・・
【キングダム】王騎(おうき)モデルになっている実際の秦将軍の王騎ってどんな人?
「キングダム』という物語に登場する王騎という人物に興味がわくと同時に、そのモデルになっている、実際に中国の春秋戦国時代に活躍した秦の将軍王騎のことが気になります。
そこで、「史記」などの史書に記されている王騎という人物について検証してみます。
まず「キングダム』では「王騎」と表記がなされていますが、『史記』では漢字違いで表記されて登場します。
王騎は、『史記』の『秦始皇本紀』に
246年に嬴政(えいせい)が3歳で秦王となった時に将軍であったように記されています。
ただしその後には、紀元前244年蒙驁(もうごう)が韓を攻めて13の城を攻め落とした戦いがあって、この時に王騎が死んだということが記さているのです。
「君が言っていた童とはひょっとしてあなたのことですかァ?」
キングダム7巻
と話はじめます。
しかも「史記」の「秦始皇本紀」に記された王騎の事績はまさにこれだけなのです。
キングダムであれだけ描写されるほどの史実は存在しないのです。
「史記」では活躍をした人物に関しては「列伝」として個人の項目を設け、その事績を記しており、
「平原君」
など、「キングダム」に登場する人物達の列伝は当然ながら数多く記されています。
しかしこちらにも王騎の名前は見出すことができないのです。
じつは名前は違うのですが、王騎と同一人物では?」と考えられる説が唱えられている人物が『史記』に登場しています。
それが「王齕(おうこつ)」です。ご存じのように王齕(おうこつ)といえば「キングダム」では、政の曾祖父である昭王に王騎とともに秦六大将軍のひとりとして仕えた人物として登場しています。
『史記』『秦本紀』によれば王齕(おうこつ)は、
「紀元前260年、白起(はくき)を上将軍として王齕(おうこつ)を副将とし、長平の戦いで趙を大敗させた」
「紀元前259年、五大夫の陵に代わって将として趙を討った」
「紀元前258年、王陵が趙の邯鄲を攻めたが戦況が思わしくないので王蛇が代わって将となった」
「紀元前257年、魏を攻め6千の首を取って晋、楚の河に流され死んだものは二万人魏軍を敗走させた」
「紀元前246年、王齕(おうこつ)が上党の地を攻め初めて太原郡をおいた」
などとあります。
つまり王齕(おうこつ)は昭王・孝文王・莊襄王と秦の3代の王に仕えて活躍した人物ということです。
こちらの方が、『キングダム」の中ではすでに故人で1シーンしか登場していない王齕(おうこつ)より、
主人公信の師のような存在である王騎の姿そのものです。
しかし、その王騎も「キングダム」では趙軍との戦で帰らぬ人となってしまいます。
嬴政(えいせい)が秦始皇帝となった暁には、秦軍に王騎を越えるような新六大将軍が、李信(りしん)を加え場してくれるのではないでしょうか。
そして王騎もそれを望んでいるのではないかと思います。